目黒区美術館が1988年に、岡秀行より譲り受けた「日本の伝統パッケージ〈包む〉コレクション」を紹介する展覧会。direction Q は全体のデザインおよび出版プロデュースを担当しました。
岡秀行(1905-1995)は、戦前からグラフィックデザイナーとして活躍する一方で、日本の風土で育まれた自然素材の包装や容器に「美的な価値」と「心」を見いだし、収集と研究を始めました。それらは昔ながらの手わざによる素朴な美しさをもつもの—米俵や卵の苞(つと)—や工芸的ともいえる職人技が光る造形美をもつもの—鮨桶や酒瓶—などでした。1960年代から70年代に、その成果は書籍・展示会としても結実し、日本国内のみならず、海外にも「TSUTSUMU」という言葉とともに大きな反響を巻き起こしました。
今日、あらためて伝統パッケージの意味に触れることは、当時とは違った意味合いも見えてきそうです。第2の自然と位置づけることもできる伝統パッケージは、現代人の私たちが忘れかけているかもしれない日本人独特の価値観や心を見つめ直すきっかけの一つになるかもしません。
最後に岡が引用している梅原猛『美と宗教の発見』の一節を記します。
「古来、わが国には人間を自然と対比させる考え方はない。人間を始め動植物も、すべて生きとし生けるものとして、それは自然の一部なのである。・・・日本人にとって、存在するものはすべて生命あるものであり、この生ける生命の表れが自然であり、人間もこの自然の生命と同じ生命を宿しつつ、自然の中に親しみつつ生きるものあった」